第53回大会 教育講演会/研究発表会
平成30(2018)年1月23日(火) 地方独立行政法人 東京都立産業技術研究センター本部
(東京都江東区青海2-4-10)
放射線技術が食のためにできる3つ目のこと-RIイメージングによる「核農学」-
藤巻 秀(量子科学技術研究開発機構)
人間はすべて、植物に頼って生きている。私達は土や空気の中の栄養元素を直接摂取できず、植物が根や葉から吸収して実などに集めてくれたものを利用している。逆に、土の中にあったカドミウムなどの有害元素が集まった実などは、私達の病気の元になってしまう。このような「環境中の元素を植物がどのように取りこみ、人間が食べる部分に集めるのか」を明らかにし、それをコントロールすることも、農学の使命の一つである。
近年大きな発展を遂げた「核医学」分野では、放射性薬剤ががん組織に集積する様子をポジトロン放出断層撮影法(PET)により画像化する技術が診断法として普及した。一方、植物研究分野では、今から20年ほど前、PETと同じ原理に基づく「PETIS
(Positron-emitting Tracer Imaging System)」が開発された。これまで私達の研究グループでは、農学の視点から、このPETIS等を用いて、様々な元素が様々な植物に吸収され、植物体内を移行し蓄積する過程を画像化し解析してきた。代表的なテーマとしては、作物の生産性と光合成産物の動きの関係、塩害に強い植物の秘密、主要作物におけるカドミウムの動き、放射性セシウムの作物体内での動きなどが挙げられる。
こうした私達のアプローチはまだ基礎研究の段階であり、農業技術の革新に貢献できるような実用化と普及までの道のりは遠い。しかし、いつか「核医学」に比肩する「核農学」として、世界の農業と食の問題の解決に資する日が来ることを夢見ている。
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